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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)2044号 判決

原告

高野了一こと姜了一

ほか一名

被告

秦美由喜

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ一五一万六八九五円及びこれに対する平成三年八月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告らの、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、それぞれ一〇〇〇万円及びこれに対する平成三年八月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らの母である高野弘子こと姜弘子(以下「弘子」という。)が、被告の運転する自動車に衝突されて死亡したとして、その子である原告らが、被告に対し、民法七〇九条に基き、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下の事実のうち、1、4は当事者間に争いがなく、2は甲第七号証、第九号証、乙第二号証、第三一号証により認められ、3は甲第一三号証の一ないし三及び弁論の全趣旨により認められる。

1  弘子は、平成三年八月八日午前一時三五分ころ、大阪府泉北郡忠岡町忠岡中一丁目四番九号先道路(以下「本件道路」という。)を横断して歩行中、被告の運転する普通乗用自動車(和泉五二ね八四三六、以下「被告車両」という。)に衝突され(以下「本件事故」という。)、平成四年八月六日死亡した。

2  弘子の死因は、本件事故により、頭蓋骨骨折等の傷害を負い、遷延性意識障害持続による全身状態衰弱のため急性心不全を併発したというものである。

3  弘子死亡当時、原告らは弘子の子であり、相続により弘子の権利をそれぞれ二分の一の割合で取得した。

4  原告らは、本件事故により、自動車損害賠償責任保険及び被告の任意保険(東京海上火災保険株式会社)から治療費として四三〇万八八六八円の支払を受けたほか、合計三五三八万一二九八円の支払を受けた。

二  争点

被告は、本件事故はもつぱら弘子の重大な過失によつて生じたものであると反論するほか、原告らの損害額を争うとともに、過失相殺を主張する。

第三当裁判所の判断

一  被告の過失について

乙第二ないし第四号証、第二一、第二一号証、第二五号証、第二七、第二八号証、第三二、第三三号証によれば、被告は、本件道路を北から南に向かい時速約四〇キロメートルで進行していたが、対向車両に気を奪われ、前方注視を欠いたため、本件道路を右から左に横断歩行してきた弘子を右前方一〇・三メートルの至近距離に認め、あわてて急制動の措置を講じたが間に合わずに被告車両を弘子に衝突させたことが認められるから、本件事故は、被告の前方不注視の過失により生じたものというべきである。

本件事故はもつぱら弘子の重大な過失によつて生じたものであるとする被告の主張は採用できない。

二  損害額について

1  治療費 二万六八三五円(請求どおり)

甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、弘子は、本件事故により藤田保健衛生大学附属病院で治療を受け、治療費として、既払分のほかに少なくとも二万六八三五円を負担したものと認められる。

2  入院雑費 四七万四五〇〇円(請求どおり)

甲第八、第九号証、乙第六号証、第二〇号証、第三〇、第三一号証及び弁論の全趣旨によれば、弘子は、平成三年八月八日から平成四年八月六日までの三六五日間、岸和田徳州会病院及び藤田保健衛生大学附属病院に入院したことが認められ、これによれば、弘子は、本件事故により、入院雑費として、一日あたり、一三〇〇円合計四七万四五〇〇円の支出をしたものと認めるのが相当である。

3  付添看護費 四一三万一二三〇円(請求どおり)

甲第八号証、乙第六号証、第三一号証によれば、弘子は、本件事故により受傷し昏睡状態となつて付添看護が必要な状態となり、平成三年八月八日から平成四年二月二七日まで岸和田徳州会病院入院中の二〇四日間に、うち一七一日は家政婦を依頼しそのための費用として合計四〇一万二四三〇円を支払い、うち三三日間は近親者が付き添つたことが認められる。近親者の付添いについてはこれを金銭に換算すると一日あたり三六〇〇円が相当と認められ、その合計は一一万八八〇〇円となるから、付添看護費としては、合計四一三万一二三〇円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

4  交通費 四四万〇七八六円(請求五六万二一七六円)

甲第五号証、第八、第九号証、乙第六号証、第二〇号証、第三〇、第三一号証及び弁論の全趣旨によれば、弘子は、平成四年二月二七日から八月六日までの間藤田保健衛生大学附属病院に入院したこと、弘子が岸和田徳州会病院から藤田保健衛生大学附属病院に転院するに際し、岸和田交通の寝台車を利用し、原告らはそのための費用として六万四四九〇円を支出したこと、弘子は、本件事故直後から死亡に至るまで昏睡状態であり、原告らは、一週間に一回程度豊明市に所在する右病院まで見舞つたが、右により交通費として三七万六二九六円を要したことが認められる。

5  葬儀費用 一〇〇万円(請求どおり)

甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、弘子が死亡したことにより葬儀を行い、そのために一〇〇万円を下らない費用を支出したものと認められる。

6  医師謝礼 〇円(請求一五万円)

甲第八号証によれば、原告らが、弘子の担当医師に対し、謝礼として合計一五万円を支出したことが窺われるが、右謝礼を支出した動機等は不明であり、本件事故と相当因果関係の認められる損害とまでは認められない。

7  休業損害 三一六万〇九〇〇円(請求五四二万四四一五円)

原告らは、弘子の収入については、平成三年の準確定申告の所得金額とされている三二六万九二九一円が平成三年一月一日から八月七日までの所得金額であるので、これを三六五日の日割計算として算定すると、弘子の年収は五四四万八八一八円となると主張し、さらに、甲第一ないし第三号証を提出し、弘子の支出・預金関係からみてその収入があつたことは確実であると主張する。確かに、甲第四号証によれば、原告ら主張の準確定申告がされたことが認められるけれども、右準確定申告は弘子自身によつてされたものではないうえ、弁論の全趣旨によれば、弘子は生前確定申告をしていなかつたことも認められ、これらによると、甲第四号証を弘子の収入を的確に証明する証拠として採用することはできない。しかし、弘子は、本件事故当時、五三歳の勤労意欲があつて稼働可能な状態にあつたのであるから、弘子には、賃金センサス平成三年産業計・企業規模計・女子労働者・学歴計・年齢五〇歳ないし五四歳の平均年収額三一六万〇九〇〇円を下回らない収入があつたものと認められる。

そうすると、弘子は、本件事故により、平成三年八月八日から平成四年八月六日までの三六五日間、岸和田徳州会病院及び藤田保健衛生大学附属病院に入院し、この間就労することができなかつたと認められるから、右弘子の年収と同額の三一六万〇九〇〇円の休業損害を被つたものと認めるのが相当である。

8  逸失利益 一七九三万五五七八円(請求三三八四万八三四九円)

弘子は、死亡当時五四歳であり、六七年までの一三年間就労が可能であつたと認められる。そして、前記の本件事故当時の弘子の年収額三一六万〇九〇〇円から生活費として四割を控除したうえ、年五分の割合による中間利息を新ホフマン式によつて控除すると、弘子の逸失利益の本件事故時の現価は一七九三万五五七八円となる。

計算式 3,160,900×(10.409-0.952)×(1-0.4)=17,935,578(円未満切捨て)

9  慰藉料 二三〇〇万円(請求二三五〇万円(入院三五〇万円、死亡二〇〇〇万円))

弘子の受傷の程度、入院期間その他本件に顕れた諸事情を考慮すると、弘子が本件事故によつて被つた精神的苦痛を慰謝するには二三〇〇万円が相当である。

三  過失相殺について

検甲第一号証の一ないし三、乙第一六号証、第一八号証、第二一、第二二号証、第二四、第二五号証、第二七号証、第三二号証及び弁論の全趣旨によれば、本件道路は歩車道の区別のある片側一車線の道路で、歩道間は一一メートルの距離があること、歩車道の間には段差があるほか、一部にはガードレールが設置されていること、自動車の制限速度は時速五〇キロメートルとされ、歩行者横断禁止の規制がされていること、本件事故現場の南約四五メートルの位置には、信号機の設置された横断歩道があること、本件事故の約三時間後に弘子の血液からその一ミリリツトル中に一・六ミリグラムのアルコールが検知されていることが認められる。

以上によれば、弘子は、横断禁止の道路を、飲酒のうえ車両への注意を欠いて横断したため本件事故にあつたというべきであり、本件事故の態様、被告の過失の程度及び右の諸事情を考慮すれば、弘子には本件事故の発生につき三割の過失があつたというべきである。

四  結論

そうすると、弘子が本件事故によつて死亡したことによる総損害は五〇一六万九八二九円となり、これより過失相殺として三割を控除し、そこから原告らが既に損害のてん補を受けた三五三八万一二九八円から医療費分を除いた三一〇七万二四三〇円を控除することとしたうえ、医療費分四三〇万八八六八円については既に原告らに支払済みであるが、前記のとおり原告らの損害から三割を控除すべきであるところ、右の医療費分の三割は過払いであることになるから、その三割に当たる一二九万二六六〇円を更に控除することにすると、その残額は二七五万三七九〇円となる。そして、本件事案の性質に鑑みれば、原告らの弁護士費用相当の損害は二八万円と認めるのが相当であるから、右残額にこれを加算した二分の一に相当する一五一万六八九五円が、各原告が被告に対し請求することのできる額となる。

(裁判官 濱口浩)

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